河正雄氏紺綬褒章受章を祝う会
(2023年7月15日)

叙勲・紺綬褒章を賜る
埼玉県立近代美術館へ美術作品寄贈に至った経緯と期待

私は1939年に東大阪で生まれ、生後間もなく秋田に居住し19歳まで暮らした。秋田工業高校卒業後、1959年より埼玉県川口市に住むようになり、2023年で64年になる。

1960年代から美術作品や資料などをコレクションしたものを、1980年代から韓国の美術館等や日本の美術館等に1万2千余点を寄贈して来た。(別紙の通り)

コレクションの中でも在日作家孫雅由の作品数は一番多く、上記各美術館等へ分けて寄贈してきた。孫雅由の小作品版画、ドローイングなどは特に愛着があったので長年所蔵していたものである。

在日の人生を振り返ると最も長く暮らした埼玉県への寄贈が抜けていた。私の人生に於ける終活の想いから、報恩の想いを込め2021年11月11日に孫雅由版画57点、ドローイング119点、資料1点、郭徳俊版画1点、文承根版画1点、計179点を埼玉県立近代美術館へ寄贈するに至った。

2022年3月10日、埼玉県立近代美術館平野到学芸主幹より「御寄贈いただいた作品(孫雅由、郭徳俊、文承根 計179点)の評価額が500万円を超えると試算しており、国の紺綬褒章の候補者として申請させていただきたいと思っております。」というメールが届いた。

2023年5月30日、「3月25日付で叙勲の紺綬褒章が国から届きました。普通は1年以内に叙勲が決まる訳だが、河さんの場合は韓国への照会などもあったようで遅れました。」との連絡をいただいた。

私は「貴美術館に寄贈していただいた叙勲ですので、美術館長室で建畠哲館長よりお受け出来れば光栄です。

在日や韓国・朝鮮人や外国籍の方が日本で活躍し、日本を第2の故郷、祖国と思ってグローバル社会の構築に寄与貢献することを認められたのは光栄であり、励みになる。個人の事柄でもあるが、これは公的な事柄でもあると思うのです。」と返答した。

追って6月9日午後3時に館長室での授与式が執り行われるとの通知があった。

韓日の公立美術館等に、在日作家らの作品コレクションを寄贈出来る事は慶事である。特に在日作家の存在と、在日の文化から生まれた美術作品が記録、記憶される。美術遺産となり守られることになったのは大きな喜びである。

しかし川口市には今だに美術館がない。初めて川口市美術展が開催されたのは1973年で、その時に出品した油絵が奨励賞を受けた。それ以来、美術家協会員として席を温め文化芸術都市としての発展を期待して来た。

長い間抱いて来た川口市に美術館があればという祈念が、いよいよ実現する。お世話になった川口市にも美術作品の寄贈を夢見た、その日が来るのを私は待ち焦がれている。

2023年6月1日記述


紺綬褒章贈呈の際の建畠晢館長のコメント

2023年6月9日
埼玉県立近代美術館にて

       

紺綬褒章の受賞おめでとうございます。

河正雄さんの紺綬褒章受賞はたいへん嬉しいニュースです。

孫雅由の177点の作品に加え、文承根、郭徳俊の作品をご寄贈いただいたことは、1970年代以降の現代美術の収集に力を入れてきた当館にとって、たいへんありがたい限りです。

特にまとめてご寄贈をいただいた孫雅由の版画、素描は小品とはいえ、どれも魅力的な作品です。ご寄贈いただいた翌年度には、早速、常設展の小コーナーで特集展示を行いましたが、おかげ様で素晴らしい展示になりました。今後も、様々なかたちで展示活用していきたいと考えています。

河さんは、長年にわたり在日韓国人アーティストを支援し、情熱を持って膨大な作品をコレクションされてきました。李禹煥をはじめ多くの在日韓国人アーティストが、河さんによって支えられ、勇気づけられてきたはずです。また、それまでは全貌が把握されていなかった在日韓国人アーティストの活動の幅の広さと重要性を、多く人たちが改めて認識することにもなりました。今回の紺綬褒章受賞は当館への作品の寄贈が対象になってはいますが、河さんのこれまでの業績やたゆまぬ熱意と決して無関係ではないと思います。

河さんは川口市にお住まいなので、埼玉県在住の美術コレクターとして、これからも引き続き当館をご支援いただければ幸いです。

作品寄贈 (2021年11月11日)

MOMASコレクション(収蔵品展)

孫雅由

孫雅由「予響曲」作品集(2000年)孫雅由特別展に寄せて―魂の響き―浦項市立美術館主催河正雄コレクション「Diaspora 孫雅由…

続きを読む